2017年7月12日水曜日

【越境するサル】№.159「珈琲放浪記~川越、東京、松本そして仙台~」(2017.7.12発行)

6月末から4日間、JRの「大人の休日」で、妻と川越・東京・松本・仙台を巡った。あわただしい旅だったが、もちろんそれぞれの土地で珈琲を味わうことは忘れなかった。あらためて「旅先でコーヒーを飲むこと」について考えた。

 
      「珈琲放浪記~川越、東京、松本そして仙台~」


1日目 「小江戸」川越で「あぶり珈琲」と出会った

   東北新幹線から山手線そして西武新宿線特急「小江戸13号」と乗り継いで、埼玉県に入る。本川越駅に到着したのが1225分。500メートルほどの蔵造りの街並みを散策し、郷土食のランチ、橋本雅邦の作品が収められている山崎美術館、そして立ち並ぶさまざまな店巡りに満足した後、どうしても珈琲が飲みたくなった。たしか「時の鐘」の近くに立ち寄りたいと思っていた店があるはずだが、なかなか見つからない。あきらめかけていた頃、付近の裏通りにまで踏み入って、ようやくその店にたどり着いた



   川越で最も有名な「あぶり珈琲」。外観も店の中も想像通りのレトロな造り、入った途端、居心地の良さを感じてしまった。どこか懐かしさも感じる。それほど古い店ではないはずなのに。もっとも私の「珈琲放浪」の目的地はいつもこんな感じだ。



   注文したのは、焙煎の度合によって5種類あるブレンドの中で最も深煎りの「5」。一口飲んだ瞬間から、その香りとふくよかさに圧倒された。しかも、のど越しもいい。旅の最初から自分の好みの珈琲に出会えた幸運に感謝しつつ、店を出た。この後、本川越から所沢経由で西武池袋線。娘宅へ向かう。


2日目 美術館とエスプレッソ

   午前9時半、上野公園「スターバックス」。10時開館の東京都美術館「ブリューゲル『バベルの塔』展」へ向かう予定の945分まで、エスプレッソを飲みながら待とうと思っていた。私と「スターバックス」は似合わないと思われているが(そしてその通りなのだが)、この上野公園の店だけは気になっていた。炎天下の上野公園を歩いている時、いつも「オアシス」のようだったこの店の存在は気になっていた最終日前日の土曜日ゆえの長い行列に加わり、『バベル』を目指す。


   オランダのボイマンス美術館から24年ぶりに日本にやってきた、ピーテル・ブリューゲル1世の油彩「バベルの塔」。日本初公開、ヒエロニムス・ボスの2点「聖クリストフォロス」と「放浪者(行商人)」、待ち望んでいたものと出会えた幸せ
   上野をあとにして山手線から東京メトロ千代田線へ乗り継ぎ、乃木坂へ。国立新美術館「ジャコメッティ展」。
   キュビスム、シュルレアリスムを経て独自の細長い形の彫刻スタイルを生み出し、20世紀フランスを駆け抜けたジャコメッティ。彼の132点の作品を展示した大回顧展。圧巻は9体の女性像が並ぶ大作「ヴェネツィアの女」、写真撮影可のやはり大作「大きな女性立像」・「大きな頭部」・「歩く男」。しばらく興奮を抑えることができない体験だった


   おそらくこの1年間で最も感動的な出会いとなった「ジャコメッティ展」に満足した後、午後1時半、美術館内の「カフェ コキーユ」でサンドとエスプレッソの軽い昼食。美術館巡りには、エスプレッソがよく似合う。


   のんびりはできなかった。新宿午後3時発特急「あずさ21号」で松本に向かう予定になっていた。



3日目 松本城と街歩きと珈琲と

   8時、長野県松本市駅前大通、喫茶「珈琲美学 アベ」。ホテルの朝食は利用せず、この老舗喫茶店のモーニングサービスで1日を始めたかった
   …前日夕刻、松本に到着。ホテルでチェックインを済ませた後、周辺を歩きまわり、パルコ裏通りの「ワイン酒場 かもしや」で夕食をとった。白馬豚のステーキや馬刺しのカルパッチョを肴に、長野県産ワインを数種類。「安曇野ワイナリーの白(ソーヴィニョン・ブラン)」・「山辺ワイナリーの白(ピノグリ)」・「サンサンワイナリーの白(シャルドネ)」・「五一ワインの赤(メルロー)」続いて居酒屋で地場の肴とビールと〆のもり蕎麦、すでに夜の松本に満足していた
   さて、「珈琲美学 アベ」だ。いかにも「街の喫茶店」といった趣きのカウンターとテーブル席が、少しずつ客で埋まっていく。みな、モーニングサービスが目当ての客だ。私も珈琲にサイドオーダー(一品ずつ注文する方式だ)のバタートースト・ベーコンエッグ・ポテトサラダをチョイス、初めて体験する流儀のモーニングを味わう。当たり前のように、喫茶店で朝食をとる。満足して、いよいよ街へ出る。



   黒い色彩が印象的な松本城(城内も見学)と隣接する松本市立博物館に午前いっぱいを費やし、昼食は老舗の蕎麦屋「こばやし本店」で「天ざる」。午後は縄手通り・中町通りを中心にたっぷりと街歩きを楽しむ。そして、午後2時、女鳥羽川沿いの民芸茶房「珈琲 まるも」にたどり着いた。



   民芸家具があふれた「珈琲 まるも」は、たくさんの観光客でほぼ満員。何とか見つけた席で「炭火焼珈琲」にありついた。しかし、体はすでに極度の疲労で、しっかりと味わうどころではなかった。ホテルで仮眠をとりたかった


 休息の後、駅前大通を急ぎ足で歩く。松本旅行最後のポイント、松本市美術館。ここで松本出身のアーティスト・草間彌生の作品を贅沢に楽しむ。「コレクション展  草間彌生  魂のおきどころ」の大作「レッド・ドッツ」や館外に置かれた作品群この出会いは収穫だった。






4日目 仙台青葉通り、「わでぃはるふぁ」で一休み 

   朝、松本駅6番線ホームで「駅そば」。冷たい蕎麦が思いのほか美味い。今回の松本旅行で食べた蕎麦は、相性がよかったのかすべて美味しかった。
   特急「しなの3号」で長野へ、長野から新幹線「あさま614号」で大宮へ、大宮から新幹線「やまびこ51号」で仙台へ。大人の休日、最後はこの仙台で一息つこうと計画していた。
   地下鉄東西線で大町西公園駅に向かい、「くらしギャラリー 風ち草」へ。和風テイストの雑貨中心のショップ「風ち草」には、仙台に来るたびに立ち寄ることにしていた。私のために、ステンレス製タンブラーを購入した。この夏、美味いビルが飲めそうだ
   店を出て、青葉通りを歩いて仙台駅に向かう。途中、喫茶「わでぃはるふぁ」で一休み。これまで何度も店の前を通りながら、なぜか縁がなかったこの隠れ家のような喫茶店に、ようやく入ることができた。入った途端、まるでずっとこの店の常連客だったような既視感。年季の入ったテーブルと椅子、本棚にあふれる「地球の歩き方」、輸入雑貨「定休日は満月の日」。



   ブレンドコーヒーの「ストロング」と「チーズケーキ」、どちらも満足。珈琲の強さとチーズケーキの濃厚さが見事にマッチし、旅の疲れが癒されたように感じる特別な時間が流れる

   4日間で入った喫茶店は6軒。旅の最初と最後に、思いがけない出会いがあった。「旅先でコーヒーを飲むこと」の意味をかみしめる。
    
 

<後記>


   今回の報告も例によって、速報のようなものである。この4日間の旅で出会ったさまざまなもの、たとえば美術作品や国産ワインについて、別な形でこの通信の中で語る日が来るような気がする。



(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

2017年6月30日金曜日

【越境するサル】№.158「今年出会ったドキュメンタリー 2017年4-6月期」(2017.06.29発行)

2017年4-6月期に出会ったドキュメンタリーについて報告する。
  

「今年出会ったドキュメンタリー 2017年4-6月期」

   2017年4月から6月までに観たドキュメンタリーを列挙する。「青森シネマディクト」を除けば、映画はDVDでの鑑賞、もしくはインターネット配信。( )内は製作年と監督名と鑑賞場所等、はテレビ・ドキュメンタリー。
         
4月・・・『サディスティック&マゾヒスティック』(2000  中田秀夫)
     『パンターニ  海賊と呼ばれたサイクリスト』
     (2014  ジェームズ・エルスキン)
     『SACRED  いのちへの讃歌』(2016  トーマス・レノン)
          『将軍様、あなたのために映画を撮ります』
     (2016  ロス・アダム、ロバート・カンナン)
          『永遠のヨギー~ヨガをめぐる奇跡の旅』
     (2014  パオラ・デ・フロリオ、リサ・リーマン)                          
              
          『激動の家族史を記録する~中国・新たな歴史教育の現場~』
     (2017  ドキュメンタリーWAVE
          『偽りの捜査~20年目の再審が封印した真実~』
     (2017  テレメンタリー)
          『ピカソの遺産~女神(ミューズ)たちから生まれた傑作~』
     (2016  BS世界のドキュメンタリー)
          『境界の家~沖縄から福島へ・ある原発技術者の半生~』
     (2017  ETV特集)
          『獄友たちの日々』(2017  ETV特集)
          『ニューヨーク地下鉄7号線~移民たちはどこへ~』  
     (2017  BS1スペシャル)
          『捨てられたコメ~秋田・減反政策48年目の告発~』
     (2017  NNNドキュメント)              
          極右の誘惑~フランス  ルペン支持者の本音~』
     (2017  BS世界のドキュメンタリー)              
          『ユーリー・ノルシュテインの、話の話。
            ~アニメーションの神様  終わらない挑戦~
     (2017  ノンフィクションW      
              
5月・・・『ぼくと魔法の言葉たち』
     (2016   ロジャー・ロス・ウィリアムズ  青森シネマディクト)
      『ノーマ東京  世界一のレストランが日本にやって来た』
     (2016  モーリス・デッカーズ)
      『ざ・鬼太鼓座』(1981  加藤泰)
          『パコ・デ・ルシア  灼熱のギタリスト』
     (2015  クーロ・サンチェス)
      
      『わたしの話を聴いてほしい-あの事件から9か月  今思うこと-』
     (2017  NNNドキュメント)
      『暮らしと憲法  第1回  男女平等は実現したのか  
             第2回  外国人の権利は』2017  ETV特集)
          『われら百姓家族・遺言』(2017  ザ・ノンフィクション特別編)
      『トランプWAR~メディアに挑む 
     “つぶやきとウソが動かす世界』2017  NNNドキュメント)  
          『咲き誇れ  希望の花よ~「震度7」に2度襲われた町で~』
      (2016  テレメンタリー  
        2016年度最優秀賞受賞作品アンコール放送)
      『ルーブル美術館を救った男』(2017  ドキュランドへようこそ!)
          『和食  ふたりの神様  最後の約束』(2017  NHKスペシャル)
          『ママはいないけど~東松島市  震災遺児の5年~』
     (2016  FNSドキュメンタリー大賞特別賞)
          『慟哭の海~韓国セウォル号事故  母たちの3年~』
     (2017  BS1スペシャル)
          『乾貴士  そのドリブルで未到の領域へ
        ~スペインで戦う孤高のフットボーラー~』
     (2017  ノンフィクションW

6月・・・『わたしの自由について~SEALDs  2015~』
     (2016  西原孝至)
          『グレート・ミュージアム  ハプスブルク家からの招待状』
     (2014  ヨハネス・ホルツハウゼン)
          『サクロモンテの丘~ロマの洞窟フラメンコ』
     (2014  チュス・グティエレス 青森シネマディクト )
     『ゆんたんざ沖縄』(1987  西山正啓  シグロ無料配信)            
      
     『新見のワイナリー、世界へ~日本ワインブームの中で~』
     (2017  サタデードキュメント)
          『グレートファミリー  巨大財閥の100年』
     (2017  映像の世紀プレミアム)
     『原爆スラムと呼ばれた街で』(2017  ETV特集)    
          『出かけよう、日美旅スペシャル  奈良  美仏の都へ』
     (2017  日曜美術館)
          『わたしは、LGBT』(2017  NNNドキュメント)
          『死刑囚と姉ー袴田事件50年ー』
     (2016  FNSドキュメンタリー大賞ノミネート) 
       『ヒロシマの山~葬られた内部被ばく調査~』
     (2012  サタデードキュメント)
          『少年A~神戸児童連続殺傷事件  被害者と加害者の20年~』
     (2017  NNNドキュメント)
            
   毎回、「収穫」を選んでいるが、2017年4-6月期の印象に残った作品について数本紹介する。まず、映画から。

 『サディスティック&マゾヒスティック』(2000 中田秀夫)。中田秀夫監督が自ら助監督もつとめた師匠・小沼勝監督の自宅や撮影現場を訪れインタビューを試みたドキュメンタリー。日活ロマンポルノを牽引した小沼監督の作品の映像がふんだんに使用され、当時の監督仲間・スタッフ・女優たちにもインタビューを敢行する。日活ロマンポルノ30周年記念作品。

 『パンターニ 海賊と呼ばれたサイクリスト』(2014 ジェームズ・エルスキン)。1998年、イタリアのロードレーサー、マルコ・パンターニはツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリア制覇を成し遂げた。ファンにイル・ピラータ(海賊)と呼ばれた彼は、ドーピング問題で崩壊の危機に瀕していたロードレース界の英雄だった。しかし、パンターニもまたドーピングのスキャンダルに巻き込まれ、傷つき、絶望の中でひとりきりの死を迎えた。34歳だったひとりの天才サイクリストの人生を追う傑作。
   

 SACRED いのちへの讃歌』(2016 トーマス・レノン)。人は、なぜ祈るのか?をテーマに、世界各地40ものカメラクルーが人々の信仰の姿を撮影し、その映像をアカデミー賞・エミー賞等の受賞歴を持つトーマス・レノン監督がまとめ上げた。比叡山の峰々を巡礼する「千日回峰行」、割礼や洗礼、死にまつわる儀式、メッカ巡礼、苦行者、終身刑囚の信仰29回アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭パノラマ部門正式出品、第29回東京国際映画祭でワールドプレミア上映。410日、WOWOW「ノンフィクションW」で放送された。

 『将軍様、あなたのために映画を撮ります』(2016 ロス・アダム、ロバート・カンナン)。1978年、韓国の国民的女優・崔銀姫(チェ・ウニ)が旅行先の香港で姿を消した。その行方を追っていた元夫の映画監督・申相玉(シン・サンオク)も行方不明となり、北朝鮮による拉致の可能性が考えられたが、消息不明のまま捜査は暗礁に乗り上げた。実は、二人は拉致された後、5年間別々に監視された生活を送っていた。その後金正日の仲介により再会を果たし、金正日からある指示を受ける。それは北朝鮮のために映画を制作せよ、というものだった。監視のもととはいえ比較的自由な環境と潤沢な予算を与えられ、二人は3年弱の間に17本の映画を作り上げる。しかし1986年、二人は用意周到な計画に基づき、アメリカへの亡命に成功する数々の証言と秘密に録られた金正日の肉声の録音テープ、そして申相玉監督作品で構成された、謎の事件の「真実」。

 『ぼくと魔法の言葉たち』(2016  ロジャー・ロス・ウィリアムズ  青森シネマ・ディクト)。自閉症により2歳で言葉を失い、6歳まで孤独な世界に閉じ込められていた少年オーウェン。そんな彼がある日発した言葉が、毎日観ていたディズニー・アニメーションに登場するセリフであることに気づいた父と母は、ディズニー・アニメーションの登場人物になりきって息子との会話を試みる。弟の力になろうとする兄も含めた家族のサポートにより、やがてオーウェンは徐々に言葉を取り戻していく明るさを忘れずに、障害を乗り越えて自立を目指すオーウェンの姿は、感動的としか言いようがない。傑作である。

 『ノーマ東京  世界一のレストランが日本にやって来た』(2016  モーリス・デッカーズ)。イギリスの月刊誌「レストラン」による「世界のベストレストラン50」で5度1位に輝くデンマークのレストラン「ノーマ」。2015年、そのカリスマシェフであるレネ・レゼピが総勢77名のスタッフを引き連れ来日、「ノーマ・アット・マンダリン・オリエント・東京」を期間限定で開店した。日本全国を巡る食材探しと、オープンぎりぎりまで試行錯誤を繰り返したメニュー作りの全記録。

 『ざ・鬼太鼓座』(1981  加藤泰)。巨匠・加藤泰監督の遺作にして幻のドキュメンタリー。佐渡ヶ島の芸能集団「鬼太鼓座(おんでこざ)」の若者たちの姿を2年かけて撮影し制作したこの作品は、加藤泰監督生誕100年を記念して当時のスタッフ監修のもとデジタルマスター作業が行われ、第73回ヴェネチア国際映画祭クラシック部門でワールドプレミア上映の後、2017年劇場公開された。若者たちの厳しい鍛錬と太鼓をはじめとする和楽器の演奏、加藤泰監督は自らの美学に従ってそれらを描き尽くそうとする。

 『わたしの自由について~SEALDs  2015~』(2016  西原孝至)。2015年、安倍晋三首相は集団的自衛権の行使容認を含む新たな安全保障関連法案を国会に提出した。この動きに対して、東京を中心に立ち上がったのが学生団体「SEALDs」(シールズ/ 自由と民主主義のための学生緊急行動)。20156月から半年間に及ぶ、彼らの国会議事堂前抗議行動の記録。 

 『ゆんたんざ沖縄』(1987  西山正啓  シグロ無料配信)。 623日沖縄慰霊の日に合わせて、シグロ第1回作品の『ゆんたんざ沖縄』が、22日(木)0時より25日(日)24時まで4日間限定で、無料配信された。
嘉手納空軍基地の隣の読谷村、戦後38年たって84人の集団自決が明らかになったこの村のチビチリガマに平和の像を作ることになったこの像の制作過程と沖縄戦の記憶、沖縄国体を間近にひかえた地元高校卒業式の「日の丸掲揚」をめぐる軋轢、これらが交錯して死者84人の法要の日へと向かう。撮影:大津幸四郎、音楽:小室等。なお、先日亡くなった大田昌秀元沖縄知事のインタビュー映像も『大田昌秀さんの死を悼む』(ジャン・ユンカーマン監督によって3分に編集)というタイトルで同時配信された。

テレビ・ドキュメンタリーからも数本。

『激動の家族史を記録する~中国・新たな歴史教育の現場~』(2017 ドキュメンタリーWAVE)。中国ではこれまで家族に語ることすらタブーとされてきた現代史。いま、その中国の教育現場で「歴史記録」という新しい試みが行われている。子供たちが家族に聞き取りを行いそれを作文にまとめるその試みを、広州の中学校で取材する。文化大革命期の祖父の話を聞く女子中学生と改革開放後の父の苦労を聞く男子中学生、家族の歴史を知ることによってふたりの内面は変容していく説得力のある映像だった。なおNHKBS1「ドキュメンタリーWAVE」は、この回で終了。地上波ではなかなか取り上げてもらえないテーマについてのドキュメンタリー番組は貴重だった。残念。

『獄友たちの日々』(2017 ETV特集)。43年の歳月を経て再審無罪を勝ち取った「布川事件」の桜井昌司さん。彼は、千葉刑務所や東京拘置所で同じように時を過ごし冤罪と闘ってきた仲間たちを「獄友(ごくとも)」と呼び、交流を続けている。ともに「布川事件」で無罪を勝ち取った杉山卓男さん(故)。同じく再審無罪となった「足利事件」の菅家利和さん。さらに再審決定により釈放された「袴田事件」の袴田巖さん、仮釈放され再審を求めている「狭山事件」の石川一雄さん。彼ら5人の「出会い直し」の日々の記録ディレクターは『SAYAMA  みえない手錠をはずすまで』(2013)・『袴田巖  夢の間の世の中』(2016)の金聖雄(キム・ソンウン)監督。なおこのドキュメンタリーは、100分のドキュメンタリー映画『獄友』として2017年秋完成を目指す。

極右の誘惑~フランス  ルペン支持者の本音~』(2017 BS世界のドキュメンタリー)。制作:Antipode(フランス  2017年)。フランス大統領選挙で決選投票に勝ち残った極右政党・国民戦線の女性党首ルペン氏。反EUや移民排斥を掲げる彼女がなぜ多くの国民の支持を集めるのか。国民戦線を支持するゲイのカップル、黒人ラッパー、左派の教師、イスラム教徒通常極右から排除される人々へのインタビューを通してフランスの現状を探る。この作品を含む「シリーズ  欧州変動の予兆」の残り3本は、 『メルケル首相の試練~難民政策で揺れるドイツ~』・『政治家は去れ!イタリア五つ星運動快進撃の裏で』・『難民村の郵便配達夫』 。

『わたしの話を聴いてほしい-あの事件から9か月  今思うこと-』(2017 NNNドキュメント)。制作:日本テレビ。神奈川県相模原市の障がい者施設で19人もの命が奪われた事件から9か月後、ひとりの映画プロデューサーがある場所に向かった。13年前に映画を撮影した滋賀県の障がい者施設「びわこ学園」。重度の障害を抱えながらも必死に「言葉」を紡ぎだそうとする人々の姿から、私たちは彼らの思いや願いをくみ取ることができるか

『和食  ふたりの神様  最後の約束』(2017  NHKスペシャル)。10年連続「三つ星」獲得の寿司職人・小野二郎(91)、伝説のてんぷら職人・早乙女哲哉(70)。35年に渡る二人の交流、それはお互いの技を認め合った達人同士にしかわからない世界だった唯一ライバルと認め合うふたりの天才の技と物語を4K映像で記録。

『死刑囚と姉ー袴田事件50年ー』(2016  FNSドキュメンタリー大賞ノミネート)。制作:テレビ静岡。フジテレビでは20167月放送。「袴田事件」から50年。死刑判決を受けた弟・袴田巌元被告の無実を訴え続けた姉・秀子さんは、20143月の裁判やり直し決定・48年ぶりの釈放以降、弟とふたりの生活を送っている。死におびえる毎日から「拘禁症」を発症していた弟をじっと見守る姉。彼女の証言から「袴田事件」を検証する姉と弟、それぞれの闘いの記録と記憶、そして「現在」の生活。その見事な対比と構成に圧倒された。間違いなく、この1年間に出会ったテレビ・ドキュメンタリーの中でベストワンの傑作。

『ヒロシマの山~葬られた内部被ばく調査~』(2012  サタデードキュメント)。制作:中国放送(20128月放送)。2013年日本民間放送連盟賞テレビ報道番組最優秀作品。1946年設立された放射線影響研究所(放影研)。比治山にあるその広島研究所は隠語で「山」と呼ばれる。原爆による放射線の人体への影響を調査し続けている同研究所と前身である米国原爆傷害調査委員会(ABCC)の歴史を、当事者の証言で構成した力作。『はだしのゲン』作者中沢啓治氏の証言も収録されている。制作の前年の「フクシマ」の内部被ばくの問題ともリンクさせる姿勢は評価されるべきだろう。


<後記>

   テレビ・ドキュメンタリーについては、かなり充実した体験をしていると思う。それに比べて映画の方は物足りないが、何とか鑑賞機会を作り出していきたい。また、自主上映の「ドキュメンタリー最前線」に向けて、「講座」のような形の準備態勢を整えたいとも考えている



(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

2017年6月13日火曜日

【harappa Tsu-shin】gallery wagon 今年も始動しました♪

みなさん、こんにちは♪
先週日曜日に、今年1回目のgallery wagonを開催しました!

今回は弘前大学の大学院生 小杉奈央さんに出展していただきました。
小杉さんは北海道小樽市出身の方で、とんぼ玉を制作しています。
とんぼ玉は大学内のガスバーナーで制作しているそうです!

ピアスやネックレス、かんざし等の販売もありました♪

早速、かんざしの試着です♪
暑くなると長い髪が邪魔になってくるので、
これからの季節にぴったりのアイテムですね♪

とんぼ玉の他にもフリーペーパーの配布も行っていました!

他にもいろいろなとんぼ玉がありましたよ♪
お気に入りのとんぼ玉を見つけるのも楽しそうでした!

小杉さん、足をお運びいただいた皆さん、ありがとうございました!!




(harappaスタッフ=太田)


2017年4月7日金曜日

【越境するサル】№.157「珈琲放浪記~パリの街角で、エスプレッソ~」(2017.04.02発行)

   3月の半ば、妻とフランスに出かけた。パリを中心に6泊、まるで修学旅行のような日程で、教会をはじめとする観光名所を一通り巡ったが、私の関心はそれだけではなかった。パンやチーズやハムやワイン、そして珈琲を味わうこと。もちろん、珈琲はエスプレッソ(エクスプレス)…


   フランス滞在最終日。午後にはシャルル・ド・ゴール空港に向かい夕刻にはパリを離れるというその日の朝、スーツケースに荷物をまとめ、ホテルに手荷物を預けチェックアウトを済ました後、モンパルナス通りへと歩き始めた。特に大きな目標があったわけではない。モンパルナスの街の雰囲気を楽しみ、カフェでちょっと一息つけたら。そんな軽い気持ちで、モンパルナス通りを目指したのだ。
   サン=ジャック通りのホテルを出て左に歩き、地下鉄サン=ジャック駅が右手に見えると、まもなくダンフェール=ロシュロー広場にたどり着く。あとで知ったのだが、カタコンブ(地下墓地)で有名な広場だ。オルリー空港行きバスを待つ人々の列の横を通り抜け、モンパルナス墓地とモンパルナスタワーだけを頼りに歩く。5分ほどで墓地に沿った道を歩いていることを確認し、さらに5分ほど進むとそこはもうモンパルナスの街だ。右に折れて、レストランが連なるガイテ通りを抜け、エドガー・キネ通りの朝市に遭遇した。水曜と土曜だけ開かれるこの市は、地元の人々でにぎわっていた。もちろんアジア系の人間も私たちふたり以外にはほとんど見当たらず、素顔のパリ・市井のパリをのぞいた気分になった。野菜・魚・ハム・チーズそして花、この土地でしばらく暮らしてみたい…そう思わせる場所だった。




   朝市の目の前にモンパルナス・タワーがそびえ立つ。その隣のモンパルナス・ショッピングセンターで態勢を整え(トイレは50セント、シャンゼリゼよりは安い…)、カフェを探しにモンパルナス通りへ出る。



   著名なカフェ(ビストロ・ブラッスリー・レストラン含む)が立ち並ぶこの通りをゆっくりと物色し、私たちがたどり着いたのは、ハムのサンドウィッチと珈琲が気楽に味わえる店だった。慣れないフランス語にいくらか英語を交えて注文した、ハムとチーズのサンドウィッチ(ジャンボン・フロマージュ)とエスプレッソ・ダブル。とうとう、このセットにたどり着いた…



   この日までの日程は、かなりハードなものだった。
   初日。シャルル・ド・ゴール空港に降り立った後、専用バスでイル=ド=フランス(首都パリを中心とする地域圏)のオー=ド=セーヌ県(パリの西側郊外の一角を占める)の街クリシーに向かう。モンマルトルにもほど近いこの街のホテルが、最初の宿泊場所となる。
   2日目。ここからずっと専用バスの旅。午前中はセーヌ河岸シテ島観光。コンシェルジュリー、サント・シャペルそしてノートルダム寺院。ビストロでの昼食をはさんで午後はシャルトルへ(1時間半)。シャルトル大聖堂をじっくりと見学。ロマネスクとゴシック、ステンドグラスについて学ぶ。シャルトル泊。



   3日目。午前、ロワールへ(2時間20分)。途中、レオナルド=ダ=ヴィンチゆかりのアンボワーズ城をロワール河畔から臨み、その後古城(シュノンソー城)見学へ。ビストロでの昼食をはさんで午後はモン・サン・ミッシェルヘ(4時間)。夕食後、夜のモン・サン・ミッシェル修道院へシャトルバスで。モン・サン・ミッシェル泊。



   4日目。午前、モン・サン・ミッシェル修道院入場・島内散策。午後、ホテルでの昼食の後、ヴェルサイユへ(4時間30分)。ヴェルサイユ泊。



   5日目。午前、ヴェルサイユ宮殿とマリー・アントワネットの離宮プチ・トリアノン。ビストロでの昼食をはさんで、パリへ(35分)。夕方までセーヌ河クルーズでパリの名所をひと巡り。夜は地下鉄で凱旋門他へ。パリ泊。



   6日目。午前、オプションのルーブル美術館。ミロのヴィーナス・サモトラケのニケ・モナリザ・カナの婚宴・ナポレオン1世の戴冠式…午後、ルーブルからコンコルド広場・凱旋門まで、シャンゼリゼ通りを散策。夕刻から、オプションのムーランルージュ・ディナーショー。ついに「フレンチカンカン」と出会う。



   こうして、最終日を迎えた。

   この6日間、珈琲に全くありついていないというわけではなかった。
   初日、クリシーの街を散策した際、公園の横に手頃なカフェを見つけ、勇気をふるって入ってみた。はじめての「カフェ体験」である。
   その日は普通の(つまりエスプレッソではない、もっと薄い味の)珈琲が飲みたかったので、メニューをじっくり読んで「カフェ・ロング(アロンジェ)」(「アメリカン」でもオーケー)を注文した。普段飲み慣れた味とは違うが苦みが主体で、長旅で疲れた体には心地よかった。その向かいに発見したマルシェと合わせて、幸運な初日の出会いだった。



   ホテルの朝食では、必ず珈琲を飲んだ。日本のホテル滞在時ではありえないことだ。ロングかエスプレッソ、どれもそこそこ美味しく感じたのは、朝食のパンやハムやソーセージ、それにチーズやヨーグルトやジュースが皆美味しかったからだ。少なくとも朝食については、ほぼ全てのホテルに満足した。
   パリに戻ってきてから、いよいよカフェのエスプレッソにチャレンジすることになった。
   6日目のパリ自由行動(とは言ってもガイド付きオプションが2つだが)の午前、ルーブル美術館の見学後に駆け込んだ館内のカフェ。想像以上に美味しかったベーグルとともに飲んだエスプレッソ(シングル)。
   そして、午後たっぷりと時間を取って散策したシャンゼリゼ通りのカフェ。これも想像以上に美味しかったケーキ(ミルフィーユ)とともに飲んだエスプレッソ(シングル)。間近に凱旋門を仰ぎながら味わった珈琲の味は忘れられない…



   というわけで、最終日の前に「カフェ体験」はすでに済ませていた。

   …さて、モンパルナスのカフェだ。
   待ち合せてランチの二人連れや子供連れの家族に囲まれながら、ハムとチーズとバゲットのサンドウィッチとエスプレッソを味わう。エスプレッソの苦みと砂糖の甘さが見事にマッチして心地よい。パリの目標をひとつ果たした満足感に包まれ、店を出た。



   滞在中一番の涼しさを感じる帰路、モンパルナス墓地入口を右手に見て(サルトルとボーヴォワールの墓はすぐ近くだった)午前中朝市をやっていたエドガー・キネ通りからラスパイユ通りに合流。左手には、藤田嗣治がアトリエを構えていたカンパーニュ・プルミエール通りがあるはずだ。



   朝最初の目印にしたダンフェール=ロシュロー広場付近は若者たちのデモンストレーションの出発地点となっているらしく、その喧噪と重低音のサウンドに圧倒される。何のデモか判然としなかったが、英語で書かれていたため唯一読み取れたスローガンには「私たちはテロリストではない、アーティストだ。」とあった。移民排斥に反対するデモだろうか…急ぎ足で、集合場所のホテルを目指す。




   こうして、パリ最終日は過ぎていった。

<後記>
   生まれて初めての「ヨーロッパ旅行」は、「旅のスケッチ」ではなく「珈琲放浪記」という形で報告することにした。「街角でエスプレッソ」というのが、実は一番大きな目標だったからだ。ただ、もっとコミュニケーションがとれたらもっと素敵なカフェ体験をすることができたのに、とも思う。これから、世界のどの街を訪れても、積極的に街角のカフェを訪れよう。

(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。