2017年11月15日水曜日

【harappa Tsu-shin】「ひろさき美術館2-Silent Studies-」

10月20日(金)~11月12日(日)まで旧市立図書館で開催していた
「ひろさき美術館2-Silent Studies-」ですが、お陰様で無事に終了いたしました♪
旧市立図書館は弘前市の歴史および弘前市民の記憶を伝える建築物であり、
弘前の文化の持続・共有を語るには欠かせない、弘前市民の知の象徴と言えます。
そんな旧市立図書館を舞台に、3名の作家が「Silent Studies」をテーマに展示を行いました。
今回は展示の様子を少しご紹介いたします♪


「関典子×婦人閲覧室」
旧市立図書館のおごそかな雰囲気と関さんの作品がとても合っている展示でした。
まるで昔からそこにあるようなマッチぶりでした。
ぱっと見ただけでは分からない細やかで丁寧な技法に魅せられ、
一つ一つの作品をじっくり見てくださるお客様が多かったです♪



「斎藤啓司×図書室」
「一縷」
“知”を象徴するアナログ的ツールの一つ、鉛筆。
脆く折れやすい鉛筆の芯を、只々ひたすらに物理的に自立出来る限りで、工芸的修復技法である金継技法を用い接続・積重した作品。
津軽という場所や人が教養や文化的意識に深く根ざしたものであってほしいという勝手な強い願いを、賽の河原の積み石のごとく願いを念じながら、折れ続けながらも一つ一つ執拗に積み上げた作品。(作者解説より)
「二十歳のころ」プロジェクト」
本の色彩や形状も含めた物質としての造形性という視覚的感覚的な要素と、インスタレーションされた内容や文脈に依拠するグラデーションや論理・思考的要素という、表象とコンテクストの二つの要素から構成することで、本棚全体を一つの作品と見立てた。(作者解説より)    
 「analysis for bricolage (文房具)」
ある用途性を持った道具を可能な限り分解することから、用途性を排除することで一つ一つのパーツを美術としての固有の物質と見立て、造形化・彫刻化するために工芸的技法(金泥・銀泥技法など)を援用することでささやかに介入し装飾を施す。(作者解説より)
 部屋に入ると、まず鉛筆の長さに驚く声があがっていました♪
皆さんからお借りした本で完成された「二十歳のころ」プロジェクト」の本棚は、
自分が読んだことのある本や、本の整列の繋がりをみるととても面白い作品となりました。

「橋本尚恣×評議室」
 「カタコトテリトリー」
「カタコトテリトリー」はもとからあった本棚を活かした展示作品で、
まるでそこにあるのが当たり前であるかのような安定感がありました。
そしてもう一つ、実は2階閲覧室の展示ケースにこっそり橋本さんの展示スペースもありました♪
作品のネタ帳とも言える貴重なものを公開してくださっていました。
こちらもとても面白かったです♪


今回もたくさんの方々にご覧いただけて、本当に嬉しく思います。
展示作品はもちろん、建物自体も楽しんでいただきたいという想いも強いので、
旧市立図書館に初めて入ったという市民の方々の声を聞いて、とても嬉しかったです。
弘前には素敵な建物がまだまだたくさんあります。
そして、素敵な地元作家さんもまだまだたくさんいらっしゃいます!
来年度以降もぜひ開催していけるように頑張りたいと思いますので、
ぜひ応援よろしくお願いいたします。


(harappaスタッフ=太田)

2017年11月14日火曜日

【越境するサル】№.165「木村文洋監督、〈もうひとつの家族〉の物語~上映会への誘い~」(2017.11.12発行)

12月2日、harappa映画館は弘前出身の若手映画監督・木村文洋の新作『息衝く』(2017)を上映する。木村監督作品としては、『へばの』(2008)・『愛のゆくえ(仮)』(2012)に続く3本目の上映である。併映の『へばの』が『息衝く』の前篇とも言うべき作品であることを考えれば、〈家族の物語〉に対する木村監督のこだわりの、ひとつの到達点を私たちが見届ける上映となるはずである。

 
    「木村文洋監督、〈もうひとつの家族〉の物語~上映会への誘い~」

  今年2月、東京銀座8丁目・国映TCC試写室で行われた『息衝く』試写会に駆けつけた。その上映中、私はずっと「この映画は今までのどの映画とも違う、まだ誰も見たことのない映画だ」と思い続けていた。決して手放しで称賛しているわけではない。実際のところ、息をのむような素晴らしいショットや展開と、観客の予測を裏切るストーリー構成が、時には高揚感を時には焦燥感を私に与え、振りまわされた私は結果として立ち尽くすほかなかった。だが、それでもそこに何か輝きのようなものを見たような気がしたのだ
  
   六ヶ所村核燃料再処理工場で内部被曝に襲われた男と、彼と結婚するはずだった女の別れと再会、そして父と娘の〈家族〉の物語『へばの』から8年。この間私たちは「3.11」を経験し、木村監督は『へばの』の続篇となる、青森を出た母と息子の物語を必死で紡いでいた。その途中、オウム逃亡犯を題材とした『愛のゆくえ(仮)』で見事な切れ味を示したが、私たちはずっと〈もうひとつの家族〉の物語の完成を待ち望んでいた。

  こうしてついに完成した『息衝く』には、何と多くの、消化しきれないほどの、テーマが描き込まれていることだろう。母と子が東京で生きていくこと、宗教を心の拠り所として活動していくこと、政治活動に身を捧げさまざまな矛盾の中で心身をすり減らしていくこと、人と人の絆が時には強く時には脆いということそれらすべてが、群像劇として私たちの前に投げ出される。その重さを、私たちはそのまま受けとめなければならないのだが、それはなんともきつい作業だ。

   『へばの』から『息衝く』へ、ひとまず完結したこの物語を多くの人に観てもらいたいと思う。そのあとで、議論をしてみたい。とりわけ『息衝く』の不思議なリアリティと、不安定さについて。あるいは、この先、木村文洋はどこに向かい、どこにたどり着くのか、について。

   まずは上映会へ。


日程等は次の通り。

12月2日(土) 弘前中三8F・スペースアストロ

「弘前出身、木村文洋監督特集 
    青森から東京へー『もうひとつの家族』の物語」

      10:30   『息衝く』(130分)
         上映後、木村文洋監督によるシネマトーク
      14:30   『へばの』(81分)      
      16:30   『息衝く』(130分)
         上映後、木村文洋監督によるシネマトーク

1回券 前売 1000   当日 1200  
会員・学生 500 
 1作品ごとに1枚チケットが必要です。

チケット取り扱い                                                       
    弘前中三、紀伊國屋書店、まちなか情報センター、弘前大学生協、
    コトリcafe(百石町展示館内)

詳細は、次をクリックせよ。



<後記>

   映画を人に紹介することの難しさを、今回ほど痛感したことはない。上映会のチラシのキャッチコピーからリード文、2本の映画の内容、さらにこの「上映会への誘い」。ただストーリーを並べただけでは伝わらない何かについて必死に考え、必死に発信しようともがいたこの一カ月半だった。

   上映会の『息衝く』最後の回のあとのシネマトークに私も参加する。その時まで、もがき続けることになりそうだ。




(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

2017年10月24日火曜日

【越境するサル】№.164「珈琲放浪記~山形で『自家焙煎深煎り珈琲』に出会った~」(2017.10.21発行)

 この10月、「山形国際ドキュメンタリー映画祭2017」で山形市を訪れた。その概要はすでにこの通信で報告しているが(※注)、今回の映画祭期間中に出会った珈琲についても紹介したいと思う。何度もこの街を訪れながら、実はまだ「珈琲放浪記」で山形を紹介したことがなかった。それは、私の求める「自家焙煎深煎り」の珈琲となかなか出会わなかったからだが、今回の旅でついにお気に入りの味と出会った。それも3店。今後何度も訪れるであろうこの街が、「珈琲放浪」にとっても重要な場所になった。

 
        「珈琲放浪記~山形で『自家焙煎深煎り珈琲』に出会った~」

  出発のかなり前から、山形市内の自家焙煎珈琲の店をネット検索等で調べ始めた。そして、ここ1~2年の間に開店した2軒の店が自分の好みに合うのでは、と思うようになった。映画祭の会場や中心街ともほど近く、これはもう時間を作って行くしかない。「珈琲放浪」のスタートだ…


1 「ボタコーヒー(BOTA coffee)」山形市七日町

  かつて、いくつもの映画館が立ち並んでいた七日町「シネマ通り」。「ボタコーヒー」の店内に足を踏み入れると、なにやら既視感のようなものに包まれている自分に気づく。100年続いた「洋傘のスズキ」の建物をそのまま利用し、内壁はむき出しのコンクリート。一見無造作に置かれた椅子やテーブルと薄暗い室内。雰囲気はまるで「いまどきのカフェ」のようにも見えるが、珈琲の質に対する頑固さは並大抵ではない。
  若い店主が丁寧にドリップする自家焙煎深煎りの「ボタブレンド」は、しっかりとした苦みを特徴としながらも、なぜか優しさも兼ね備えている。珈琲は通常この「ボタブレンド」のみ。柔らかな人当たりの店主だが、珈琲に関しては最高のものを求めて、試行錯誤を繰り返している。そう感じた…2度目に訪れた際、同じく「ボタブレンド」のアイスをスイーツとともに注文したが、これもなかなかのものだった。
  自宅でいろいろと試してみたいと思い、ブレンドの豆100gを購入した。



  
2 「蔵王の森焙煎工房 旅篭町店」山形市旅篭町

  山形美術館界隈はもともとお気に入りのエリアだった。映画祭でもたびたび美術館を会場とする企画のために訪れ、公園のベンチで休んだり、近くの古書店に立ち寄ったり、まあちょっとした休息のためには便利なエリアだったのだ。その近くに自家焙煎の珈琲店ができた。「蔵王の森焙煎工房 旅篭町店」である。ちょうど映画祭期間中、美術館前にテントを立てて出店していたので、店の方も営業していることを確認し訪れた。
  美術館から徒歩で5分もかからない距離にある店に着く。棚一面に置かれた各種ブレンドとストレートの豆の壜に目をやり、それぞれの豆の焙煎の度合いを店の人に確かめる。その中から選んだのが「インカのめぐみブレンド」。店内のテーブルで早速飲ませてもらう。フルシティローストとあるが、フレンチローストにかなり近い感じだ。マンデリン40パーセント、苦みとコクは充分、しかもすっきりとした喉越し。途中から少量の砂糖を加え、一気に飲み干す。これは職場に持ち帰って同僚に振る舞うべき珈琲だと思い、豆200gを購入。ついでに自分用に、これもフレンチローストに近いと思われるストレート「ケニヤ」100g購入。
  いい買い物ができた、という充実感とともに店を出た。




3 「自家焙煎珈琲ひぐらし」鶴岡市日吉町(山形市民会館前で出店)

  映画祭の期間中、土日月の3日間、山形市民会館の前に移動販売車で出店していたのが「自家焙煎珈琲ひぐらし」である。ちょうど出店初日の夕方、映画と映画の合間に思い切って珈琲を注文してみた。「86ブレンド」、この店のスタンダードらしい。何と、期待をはるかに上回る絶品の味。苦みと切れ味が見事にマッチした、完全に私好みの深煎り。こういう偶然の出会いがあるからイベントは面白い。
  「ひぐらし」は山形県鶴岡市の店舗を持たない珈琲店で、山形県と宮城県のイベントへの移動販売車による出店と配達・発送を主にしているとのこと。京都「自家焙煎珈琲ガロ」で焙煎技術を学んだということで、試しに豆も購入したが、なるほど納得できる豆の色だ。
  今回の映画祭では、朝の時間がかなりのラッシュだったようだが当然だろう。朝、気軽に美味しい珈琲を飲んで映画に向かう。あわただしいスケジュールの中、映画祭参加者にとっては素敵な贅沢である。滞在最終日も、もちろんここで珈琲を飲んでから、目指す会場に向かった…



  3つの店の豆を弘前に持ち帰り、毎日自宅で飲み続けている。すべて私の求める水準を超える美味しさである。今月いっぱい、「山形珈琲放浪」は続く。


(※注)
『越境するサル』№163「4年ぶり、映画の都へ~『山形国際ドキュメンタリー映画祭2017』~」
   http://npoharappa.blogspot.jp/2017/10/163-4201720171015.html


<後記>

   「ヤマガタ」2本目の通信を発信する。4年ぶりの映画祭で、書きたいものがたくさんあったのだ。調子に乗って、山形のワインについても書こうと思ったが、それは別の機会にする。

   次号は、harappa映画館「弘前出身、木村文洋監督特集」の紹介。





(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

2017年10月17日火曜日

【越境するサル】№.163 「4年ぶり、映画の都へ~『山形国際ドキュメンタリー映画祭2017』~」(2017.10.15発行)

  今月、「山形国際ドキュメンタリー映画祭2017」(10/510/12 ※注1)のために妻と山形市に滞在した。隔年で開催されているこの映画祭に私は2005年から参加してきたが、一昨年は仕事の都合で山形を訪れることができなかった。4年ぶりの映画祭、鑑賞する作品について何度も何度も検討を重ね、万全な状態で映画に臨むために体調を整え、高速バスを乗り継いで山形に到着した。ホテルのチェックインを済ませたのは午後10時、ついに私の映画祭が始まった
  映画祭4日間の体験を、今回も報告する(注2)。

 
  「4年ぶり、映画の都へ~『山形国際ドキュメンタリー映画祭2017』~」

   今年の映画祭では次の3つの鑑賞を主要な目標とした。まず、原一男監督の新作『ニッポン国VS泉南石綿村』、続いてフレデリック・ワイズマン監督の新作『エクス・リブリスニューヨーク公共図書館』、そして佐藤真監督の特集「あれから10年:今、佐藤真が拓く未来」。この3つを優先させて、それ以外の注目すべき作品を無理なく配置して鑑賞計画を立てる。とはいえ10スクリーンで約160本が上映される今年の映画祭、どの作品を選ぶか直前まで迷っていたというのが本当のところだ。用意した前売り券は10枚、滞在最終日以外は1日3本。こうして「私だけのプログラム」が出来上がった


10月6日(金)
  
   前夜の酒が少し残っていたが、思いのほか爽快な朝。簡単な朝食を部屋で済ませ、とにかく会場を目指す。

   10時30分、山形市民会館大ホール。
   『私はあなたのニグロではない』(ラウル・ペック  2016  アメリカ、フランス、ベルギー、スイス  93分)。大賞(ロバート&フランシス・フラハティ賞)の対象となるインターナショナル・コンペティション部門15作品の中の1本。

   1963年6月に死んだメドガー・エヴァーズ、1965年2月に死んだマルコムX、1968年4月に死んだマーティン・ルーサー・キング・ジュニア。暗殺された3人のアフリカ系アメリカ人活動家の複雑なつながりを突きとめようと、やはりアフリカ系アメリカ人の作家であるジェームズ・ボールドウィンは『リメンバー・ディズ・ハウス』を執筆する計画を立てる。この未完の原稿をもとに、ハイチ出身のラウル・ペック監督は3人の活動家とボールドウィンの映像を軸にした激動の現代史を描き出す。4人の映像の圧倒的な存在感、骨太の構成、ドキュメンタリーの王道ともいえる作品と出会った。
   なお、この作品は優秀賞を受賞した。

   12時20分、かつて映画館が並んでいたシネマ通りに急ぎ足でたどり着く。訪れる計画を立てていた喫茶で深煎りの珈琲を身体に流し込む。もっと頭を覚醒しなければ。飲み終わり、また急ぎ足で市民会館へ。

   13時00分、山形市民会館小ホール。
   『盗まれたロダン』(クリストバル・バレンスエラ  2017  チリ  80分)。サンティアゴ国際ドキュメンタリー映画祭友好 特別上映作品。

   サンティアゴ国立美術館で開催されたロダン展会期中に、ロダンの「アデルのトルソ」が盗まれた。犯人の美大生は「芸術行為としての盗難」であると主張した事件の数年後から脚本を準備したバレンスエラ監督は、現代と過去を往来する、サスペンスのような、コメディのような、「藪の中」のような(つまり複数の視点による)作品を作り上げた。
   日本語字幕がないため、スペイン語から日本語への同時通訳機を装着しての鑑賞。もっとも、英語字幕の簡潔さも役に立った。

   市民会館からほど近い場所にある映画館「山形フォーラム」に向かう。ようやく、頭と身体が映画祭にフィットし始めてきた

   15時20分、山形フォーラム4。
   『映画のない映画祭』(王我ワン・ウォ  2015  中国  80分)。アジア千波万波特別招待作品。

   2014年8月、第11回北京インディペンデント映画祭が、当局によって強制的に中止させられた。私服警官の妨害、映画祭事務局への家宅捜索、スタッフへの事情聴取居合わせた多くの人々によって撮影された映像を王我(ワン・ウォ)監督が編集したこの作品は、事の顛末の記録であり、かつ闘争宣言である。
   上映後のトークの中で、中国からの留学生と監督のやりとりが印象に残った。まさに現在進行形の映画だ。

   この日は早めに映画を切り上げて、夕刻から七日町の山形県産ワインを味わえるバルでゆっくり過ごした。明日からは、長尺の作品への挑戦も含め、ハードな日程が待っている


10月7日(土)

   雨を予感しつつ、山形美術館を目指す。この界隈の落ち着きは、私のお気に入りのひとつだ。

   10地30分、山形美術館2。
   佐藤真監督特集「あれから10年:今、佐藤真が拓く未来」。
   『我が家の出産日記』(佐藤真  1994  日本  45分)。 
   『おてんとうさまがほしい』(佐藤真構成・編集  1994  日本  47分)。 
  
   佐藤真監督が世を去ってから10年の歳月が流れた。今回の特集「あれから10年:今、佐藤真が拓く未来」は、全作上映トークという企画である。未見の作品鑑賞のために、足を運ばなければと思っていた。
   『我が家の出産日記』は、佐藤監督が企画し、自らが家族とともに出演し、演出も担当したテレビドキュメンタリー(テレビ東京)。次女出産のため妻が入院し、家に残された佐藤監督と2歳の長女。この家族の怒涛の一週間を描く「家族日記」は、今まで見たどんなテレビドキュメンタリーよりも面白かった。軽快なリズムと際立つ個性、そしてペーソスもあり被写体である佐藤監督が今はもうこの世にいないのだという事実が、心に染みる。
   『おてんとうさまがほしい』は、照明技師渡辺生さんが16ミリキャメラでアルツハイマーの妻を撮影した映像を、佐藤監督が構成・編集した作品。限られた素材から、このように優しさにあふれる作品を作り上げることができる監督に脱帽した。

   美術館界隈にも気になる喫茶があったので、深煎りの珈琲で一休み。すぐさま市民会館へと急ぐ。次は3時間35分の長尺。途中休憩はあるが、体力勝負。

   13時15分、山形市民会館大ホール。
   『ニッポン国VS泉南石綿村』(原一男  2017  日本  215分)。インターナショナル・コンペティション部門。

   石綿(アスベスト)産業で栄えた大阪・泉南地域。この地のアスベスト被害の責任を求めて、工場の元労働者と家族、周辺住民らが起こした国家賠償請求訴訟の8年以上にわたる闘いの記録がこの作品である。裁判終結に至るまでの原告と弁護団の闘いのドラマを、原一男監督は見事に描き切った。
   原監督の代表作『ゆきゆきて神軍』(1987)や『全身小説家』(1994)は、ひとりの強烈なキャラクターの存在によって成立していたが、この作品の登場人物たちの個性もまた原監督によって引き出され、魅力的な群像劇となっている。上映後、ロビーで行われた質疑応答に登場した原監督と原告団の面々に対して熱い拍手が送られたが、それは間違いなく映画祭の中で最もエキサイティングなシーンのひとつだったのではないか。
   なお、この作品は、観客の投票で決定される市民賞を受賞した。順当な結果である。

   次も市民会館大ホール。入り口前で駐車している「屋台」の珈琲で、体力の回復に努める。

   18時15分、山形市民会館大ホール。
   『激情の時』(ジョアン・モレイラ・サレス  2017  ブラジル  127分)。インターナショナル・コンペティション部門。

   1966年、文化大革命初期の中国、1968年、五月革命のパリ、ソ連侵攻時のプラハ無名の人々によって撮影された映像と、サレス監督の母によって撮影された中国訪問の記録。ブラジルを代表するドキュメンタリー作家であるサレス監督は、これらの記録の意味について、歴史と個人の生について、問い続ける。
   監督の問いかけを私がそのまま理解できたかどうかは不明である。しかし、たしかに私は、パリとプラハのアーカイブ映像から何かを読み取ろうとしていた
   なお、この作品は特別賞を受賞した。

   20時40分、弘前勢のひとりと合流し、前夜と同じバルで情報交換。次の映画祭も、この店を利用することになりそうだ。


10月8日(日)

   前日に引き続き、山形美術館へ。特集「あれから10年:今、佐藤真が拓く未来」の2本のうち1本目の『SELF AND OTHERS』(2000)は以前観ていたので、2本目の『阿賀の記憶』の開始時刻まで美術館と旅篭町界隈を散策する。そういえば、街をゆっくり歩くことはほとんどなかった…  

   11時25分、山形美術館2。
   佐藤真監督特集「あれから10年:今、佐藤真が拓く未来」。
   『阿賀の記憶』(佐藤真  2004  日本  55分) 

   新潟水俣病の舞台である阿賀野川のほとりに住む人々の生活を描いた『阿賀に生きる』(1992)から10年、佐藤監督はかつて映画に登場した人々に、そして土地に再びキャメラを向ける私たちは『阿賀に生きる』の続篇としての展開を期待するが、このドキュメンタリーはその期待を少しずつはぐらかしながら進行する。ここにあるのは、もっと普遍的な映像詩とも言うべきものだ。

   13時10分、美術館から旅篭町に向かい、「香味庵まるはち」にたどり着く。映画祭期間中、蔵を改装したこの和風レストランは深夜の交流の場「香味庵クラブ」として開放されている。
   山形入りしてから、まともな昼食をとっていなかった。別会場からたどり着いた妻と合流し、6年ぶりの定食「芋煮御膳」にありつく。今回初めての芋煮だ。
   その後、シネマ通りの喫茶を再訪。アイスコーヒーで喉を潤し、次の作品に備える。午後4時半から10時半まで、ほぼ休みなしで2本。カフェインで神経が昂るくらいがちょうどいい。
  
   16時30分、山形市民会館大ホール。
   『エクス・リブリスニューヨーク公共図書館』(フレデリック・ワイズマン  2016  アメリカ  205分)。インターナショナル・コンペティション部門。

   ニューヨーク各地の公共図書館を撮影し、図書館が取り組むさまざまな試みを紹介する3時間25分。各図書館の運営会議、討論会、講演会などの様子が見事な編集でまとめられているのだが、そこで描かれているのはアメリカの現在そのものだドキュメンタリーの世界では「神様」的な存在であるワイズマン監督の新作を、他の監督の作品と同じようにコンペ作品として当たり前に鑑賞し、しかも市民賞の投票の対象にする。これが、ヤマガタなのだ。

   20時、山形フォーラムへ急ぐ。次の作品は、上映作品が発表された日から鑑賞予定リストに入れていたもの。体力的にはほぼ限界だったが、始まってみると最初から最後までスクリーンに釘付けにされた。素晴らしい出会いだった

   20時20分、フォーラム5。
   『乱世備忘僕らの雨傘運動』(チャン・ジーウン  2016  香港  128分)。アジアの若手・新人監督の登竜門であるアジア千波万波部門21作品の中の1本。
  
   2014年9月から2ヶ月半にわたって続いた香港の雨傘運動(雨傘革命)。香港の民主的選挙を求める若者たちの運動をその内部から記録した作品。警官との対峙・衝突の生々しい映像と、テントの中の若者たちの日常生活・本音の会話の映像。監督自ら最前線で撮影しその両方を記録したこのドキュメンタリーは、台北金馬奨で最優秀ドキュメンタリー賞にノミネートされた。
  なお、この作品は、アジア千波万波部門の最高賞・小川紳介賞を受賞した。

   23時15分、ホテル近くの居酒屋でビールと焼き鳥。これが、山形最後の夜。


10月9日(月)

   9時25分、ホテルチェックアウト。荷物を預けて、すぐ山形市中央公民館(アズ七日町)を目指す。映画祭の拠点である6階ホール、今年はこの日が初めてとなる。  

   10時、山形市中央公民館ホール。
   『願いと揺らぎ』(我妻和樹  2017  日本  146分)。インターナショナル・コンペティション部門。 
  
   2011年3月11日、東日本大震災で地震と津波に襲われた宮城県南三陸町波伝谷(はでんや)。そこに暮らす人々の復興への願いと心の揺らぎを、伝統行事「お獅子さま」復活をめぐる過程を軸に描く。
   我妻和樹監督は、2005年から民俗調査のため波伝谷に入り続け、2008年からは波伝谷でのドキュメンタリー映画制作を開始。震災までの3年間の映像を『波伝谷に生きる人びと』(2013、劇場公開版は2014)にまとめ、この作品は山形国際ドキュメンタリー映画祭2013「ともにある」で上映された。『願いと揺らぎ』は『波伝谷に生きる人びと』のその後である。

   その前作も含めて、自分たちが上映できるかどうか考えながら、アズ七日町をあとにした。妻と合流したら、蕎麦屋で腹ごしらえして帰路に就く。

   14時10分、山交バスターミナルから仙台行きのバスに乗り込んだ。映画祭はまだまだ続くが、そろそろ現実に戻らなくてはなるまい。

   2年後、必ずまた、私(たち)は山形に来るだろう。


注1)
   次は山形国際ドキュメンタリー映画祭2017のHP。

注2)
   次は4年前の映画祭の報告。『越境するサル』№120「『越境するサル』的生活 2013~<ブラザー軒>と<ドキュメンタリー映画祭>と~」。


<後記>

   4年ぶりのヤマガタ報告。自分の作ったプログラムとその鑑賞記録をそのまま発信する。今回は全過程を報告したかった。

   次号は、映画祭期間中に出会った山形の珈琲についての報告。「珈琲放浪記」、初の山形篇。




(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。

2017年10月3日火曜日

【越境するサル】 №.162「今年出会ったドキュメンタリー 2017年7-9月期」(2017.9.30発行)

2017年7-9月期に出会ったドキュメンタリーについて報告する。 

 
               「今年出会ったドキュメンタリー 2017年7-9月期」

   2017年7月から9月までに観たドキュメンタリーを列挙する。映画の方はいつもの通りほとんどがDVDでの鑑賞。スクリーンで観たのは1本。( )内は製作年と監督名と鑑賞場所等。はテレビ・ドキュメンタリー。

   7月・・・『寝たきり疾走ラモーンズ』(2017  島田角栄)
             『kapiwとapappo~アイヌの姉妹の物語~』
       (2016  佐藤隆之  サンプル)
             『シーモアさんと、大人のための人生入門』
       (2014  イーサン・ホーク)            

             『加藤一二三という男、ありけり。』(2017  ETV特集)
             『出渕家の百年~国策と向き合って~』
       (2016  FNSドキュメンタリー大賞・優秀賞)
             『もし、あなたの家族が~日本の移植医療に未来はあるのか~』
       (2016  FNSドキュメンタリー大賞・特別賞)
             『北九州 小倉百円酒場のブルース』
       (2017 ドキュメント72時間)
             『ラップで廃校阻止!~北星余市高・生徒会長の激闘486日~』
       (2017  サタデードキュメント)    
             『闘う弁護士』(2017  サタデードキュメント)
             『塀の中の自由~アフガニスタンの女性刑務所~』
       (2013  BS世界のドキュメンタリー)
             『プリズン・シスターズ』(2017  BS世界のドキュメンタリー)
             『アンニョンハセヨ!ワタシ桑ノ集落再生人  2011-2017
       (2017  サタデードキュメント)            
             『爆走風塵  中国・激変するトラック業界』
       (2017  BS1スペシャル)※
                   

  8月・・・『生まれ変わりの村』(2016  森田健)
             『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』
       (2016  ジャンフランコ・ロージ)
             『ビハインド・ザ・コーヴ~捕鯨問題の謎に迫る~』
       (2015  八木景子)            
    
             4400人が暮らした町~吉川晃司の原点・ヒロシマ平和公園~』
       (2017  NNNドキュメント)
             『原爆救護~被爆した兵士の歳月~(前編・後編)』
       (2016  BS1スペシャル)
             『追跡!原爆影響報告書~隠された安田高女の記録~』
       (2017  テレメンタリー)
             『英霊たちの記念写真~柳田芙美緒が見た戦争~』
       (2017  サタデードキュメント)
             『幻の原爆ドーム  ナガサキ  戦後13年目の選択』
       (2017  BS1スペシャル)
             『原爆と沈黙~長崎浦上の受難~』(2017  ETV特集)
             『潜れ~潜れ~  対馬の海女さん物語』
       (2016  FNSドキュメンタリー大賞・大賞)
             『元ヤクザ  うどん店はじめます』(2017  ノーナレ)
             『アフター・ヒトラー(前編・後編)』
       (2017  BS世界のドキュメンタリー)
             『ぼくは生きると決めたよ  原発避難いじめからの脱出』
       (2017  NNNドキュメント)※
       
      
    9月・・・『太陽の下で-真実の北朝鮮-』
       (2015  ヴィタリー・マンスキー)
             『台湾萬歳』(2017  酒井充子  青森シネマディクト)
             TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』
       (2016  遠藤尚太郎 )
             『AMY  エイミー』(2015  アシフ・カパディア)
             『ヴァーサス/ケン・ローチ映画と人生』
       (2016  ルイーズ・オズモンド)
    
             『中国  さすらい農民工の物語』
       (2017  発掘アジアドキュメンタリー)
             『商店街のニューシネマパラダイス』
       (2017  サタデードキュメント)
             『青春は戦争の消耗品ではない  映画作家 大林宣彦の遺言』
       (2017  ETV特集)
             『死刑執行は正しかったのか  飯塚事件 冤罪を訴える妻』
       (2017  NNNドキュメント)
             『ショックルーム~伝説のアイヒマン実験再考~』
       (2017  BS世界のドキュメンタリー)
             『アフガニスタン 山の学校の記録マスードと写真家長倉洋海の夢』
       (2017  ETV特集)
             『スクープドキュメント  沖縄と核』(2017 NHKスペシャル)
             『2度殺された思い~遺族にとっての第三者委員会~』
       (2017  テレメンタリー)
             『シリーズ  難民と向き合うヨーロッパ』
       (2017  BS世界のドキュメンタリー)
             『孤高の牛飼い 40年~和牛のルーツを守る~』
       (2017  サタデードキュメント)
  
                    
   毎回、「私のベストテン」とでも言うべき「収穫」を選んでいるが、2017年7-9月期の印象に残った作品について数本紹介する。まず、映画から。

『寝たきり疾走ラモーンズ』(2017  島田角栄)。
寝たきり芸人としてNHK Eテレ「バリバラ」などに出演するピン芸人・あそどっぐ。生後間もなく脊髄性筋萎縮症を発症し、目、口、指1本だけを動かしてネタを披露する彼に、島田監督・家族・芸人仲間・介護者たちが容赦なく突っ込みを入れる。この当たり前のような、不思議な雰囲気を私たちは味わう。ちなみに、私は彼のネタが好きだ。


『シーモアさんと、大人のための人生入門』(2014  イーサン・ホーク)
 50歳でコンサート・ピアニストとしての活動に終止符を打ち、以後の人生を「教える」ことに捧げてきた84歳のピアノ教師シーモア・バーンスタイン。ピアニストとして成功するも演奏会恐怖症のためつねに抱えていた不安、朝鮮戦争従軍時のつらい記憶。その人生は決して平坦ではなかったが、音楽に対する情熱と愛を語る彼にふれるとき、私たちは何かあたたかいものに包まれたように感じてしまう。



『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』(2016  ジャンフランコ・ロージ)。
 アフリカからの難民が押し寄せるイタリア・ランペドゥーサ島。前作『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』で2013年度ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞したジャンフランコ・ロージ監督が、難民危機の最前線であるこの島に移り住み、過酷な海の旅を経て救援された難民たちと島に暮らす人々の姿にカメラを向ける。美しい映像と複雑な現実、この作品はローマ法王をはじめ各界の人々に衝撃を与え、世界の話題をさらった。2016年度のベルリン国際映画祭で金熊賞を獲得、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にもノミネートされた。


『ビハインド・ザ・コーヴ~捕鯨問題の謎に迫る~』(2015  八木景子)。
 2010年アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』。和歌山県太地町でのイルカ漁を一方的に批判するこの映画は世界的反響を呼んだが、日本からこれに反論する映画は生まれなかった。スポンサーも映画製作経験もカメラ技術もない、ほとんど素人の八木景子監督は、4カ月にわたる太地町への長期滞在と捕鯨論争両派へのインタビューによって、『ザ・コーヴ』の背後にあるものに迫ろうとする完成度という点では多少難ありだが、貴重な資料やインタビュー映像といくつもの問題提起があふれている野心作である。今後「捕鯨」について語る際の原点となる作品である。


『太陽の下で-真実の北朝鮮-』(2015  ヴィタリー・マンスキー)。
 ロシア・ドキュメンタリー映画の巨匠ヴィタリー・マンスキー監督は、ロシアと北朝鮮政府支援の下、平壌に住む8歳の少女ジンミと両親の生活を1年間にわたって撮影する。ジンミは金日成の生誕記念「太陽節」で披露する舞踊の練習に打ち込むが、北朝鮮当局によって許されたのはすべて指示され繰り返し演技させられた理想の家族の姿の撮影だけだった。疑問を感じたスタッフは、録画スイッチを入れたままの撮影カメラを放置し、隠し撮りを敢行する。検閲を受ける前に外部に持ち出されたフィルムを編集して完成した本作は、北朝鮮政府とロシア政府の妨害にもかかわらず各国で公開され、さまざまな映画祭で高い評価を受けた。


『台湾萬歳』(2017  酒井充子  青森シネマディクト)。
 日本統治下の「日本語世代」の現在を取材した『台湾人生』(2009)、彼らの戦後の苦難を描いた『台湾アイデンティティ』(2013)に続く酒井充子監督の「台湾三部作」最終章。今回の舞台は台湾南東部・台東縣成功鎮。原住民族と漢民族系の人々がほぼ半数ずつ暮らす人口約15千人のこの町に暮らす人々、特に原住民族の人々の生活に密着し、台湾そのもの・普遍的な人間そのものを描く。詳しくは、『越境するサル』№161「酒井充子監督『台湾萬歳』、台湾三部作最終章へ」参照。http://npoharappa.blogspot.jp/2017/09/1612017911.html


TSUKIJI WONDERLAND(築地ワンダーランド)』(2016  遠藤尚太郎 )
 豊洲移転により80年の歴史に幕を下ろす、世界一のフィッシュマーケット、唯一無二の「ワンダーランド」築地市場。この巨大市場で1年4ヵ月の長期密着撮影を続け、築地で働く人々と名店の料理人をはじめ150名以上にインタビューを敢行した「唯一無二のドキュメンタリー」。世界を驚かせた、ドラマよりドラマティックな110分。


『ヴァーサス/ケン・ローチ映画と人生』(2016  ルイーズ・オズモンド)。
 50本目の監督作『わたしは、ダニエル・ブレイク』が第69回カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞したイギリスの巨匠ケン・ローチ。2016年に80歳を迎えた社会派監督の生涯とキャリアを明らかにする、ファンにとっては待ち望んでいたドキュメンタリー。BBC時代の伝説のテレビドラマ「キャシー・カム・ホーム」(1966)から『ケス』(1969)・『リフ・ラフ』(1991)・『レイニング・ストーンズ』(1993)・『レディバード・レディバード』(1994)・『麦の穂をゆらす風』(2006)・『大地と自由』(1995)・『天使の分け前』(2012)・『マイネームイズジョー』(1998)そして『わたしは、ダニエル・ブレイク』(2016)などの代表作の映像と関係者の証言でつづる50年にわたる映画人生。1970年代から80年代の不遇な時代についての家族の証言は胸を打つ。


 テレビ・ドキュメンタリーからも数本。    

『闘う弁護士』(2017  サタデードキュメント)。
 制作はRKB毎日放送。現在、諫早湾干拓をめぐる裁判で漁業者側の弁護団を率いる福岡・久留米の馬奈木昭雄弁護士。彼が弁護士になりたての頃関わったのが水俣病訴訟。以来、つねに弱者の側に立ち、国や企業の責任を追及してきた。「絶対に私たちは負けない。なぜなら、勝つまで闘うから」と語る馬奈木弁護士の姿を追う。

『塀の中の自由~アフガニスタンの女性刑務所~』(2013  BS世界のドキュメンタリー)。
 原題『No Burqas Behind Bars』。国際共同制作 NHKNima FilmsSVTIKONDR (スウェーデン  2012年)。前作『タリバンに売られた娘』で反響を呼んだニマ・サルベスタニ監督が、アフガニスタンの女性虐待問題に迫る作品。舞台はアフガニスタンの女性刑務所。自分の夫から逃げた罪で入所したナジベ、好きな男性と結婚するつもりで逃げて捕まったサラ全身を覆うブルカの着用も強制されず、暴力・少女売買・結婚の強要が横行する社会から隔絶された、ある種の自由な生活が許される刑務所。しかし、彼女たちはいつか危険な「社会」に出ていく。

『プリズン・シスターズ』(2017  BS世界のドキュメンタリー)。
 『塀の中の自由』の続編。原題も同じ。国際共同制作  NHK / Nima Film / SVT / NRK / TVO / IKON / DRTV / CHANNEL 8(スウェーデン 2016年)。駆け落ちした罪で服役したサラは、出所後に別の男性と結婚。『塀の中の自由』が上映されるストックホルムに招待された際に難民申請を行い、スウェーデンで教育を受けて働くということに希望を見出していた。そんな彼女に、刑務所でともに暮らしたナジベが出所後に殺されたという情報が入る前作『塀の中の自由』と合わせ、衝撃的な作品であった。一応テレビドキュメンタリーとしておくが、映画館でも観たい作品である。

『原爆救護~被爆した兵士の歳月~』(2016  BS1スペシャル)。
 原爆投下直後の広島、市民救助を命じられた若い兵士たちがいた。救助活動と遺体を葬る作業に従事した彼らは、戦後、放射能の影響による体調不良に苦しむが、差別と偏見を恐れて口を閉ざした。大多数が被爆者手帳を取得しなかったため埋もれた被爆者となっていった彼らの、苦難の戦後。20167月に放送されたこの作品は、平成29年度第33ATP賞ドキュメンタリー部門優秀賞/グランプリを受賞。201786日再放送された。制作はテムジン。

『原爆と沈黙~長崎浦上の受難~』(2017  ETV特集)。
 原子爆弾が投下された長崎・浦上地区は、古くから弾圧されてきたカトリック信者と被差別部落の人々が暮らす土地だった。生き残った被爆者たちは戦後長く沈黙してきたが、それは差別によるものだった自分たちの体験を伝えようと動き始めた彼らの姿を追う。同じくこの月に放送された『幻の原爆ドーム  ナガサキ  戦後13年目の選択』(2017  BS1スペシャル)とともに、戦後の闇に光を当てようとする意欲作。

『潜れ~潜れ~  対馬の海女さん物語』(2016  FNSドキュメンタリー大賞・大賞)。
 第25FNSドキュメンタリー大賞・大賞受賞作品。制作はテレビ長崎。ナレーションは余貴美子。主人公の梅野秀子さんは対馬で最高齢の海女(83歳)。現在も自ら船を操縦しアワビやサザエを素潜りでとる。海女の稼ぎで家族を養い、息子ふたりを育て上げ、一人暮らしの今も冬の海に潜る、彼女の日常に迫る…BSフジで放送されているドキュメンタリー名作選「FNSドキュメンタリー大賞」。7月には、FNS各局が総力をあげて作り上げた2016年度の作品の中から、優秀賞受賞の『出渕家の百年~国策と向き合って~』(制作:石川テレビ)と特別賞受賞の『もし、あなたの家族が~日本の移植医療に未来はあるのか~』(制作:テレビ新広島)も放送された。受賞作以外も、すべて秀作と言っても過言ではない。

『ショックルーム~伝説のアイヒマン実験再考~』(2017  BS世界のドキュメンタリー)。
 1961年、米エール大学のミルグラム博士によって行われた通称「アイヒマン実験」。命令を聞く立場の人間は、権威者の指示に従って他人に電気ショックを与える残酷な行為も自分は命令に従っただけと自らを納得させてしまうという実験結果で知られるが、はたしてこの理解でいいのか。現代の役者がこのテストを再現する。ナチス政権下でホロコーストの主導的役割を担ったアイヒマンの裁判に対するハンナ・アーレントの分析にも言及する、意欲作。原題:The Shock Room。制作:Charlie Productions(オーストラリア  2015年)。初回放送は201784日。

『シリーズ  難民と向き合うヨーロッパ』(2017  BS世界のドキュメンタリー)。
 中東やアフリカからの難民・移民の大量流入に揺れるヨーロッパの最前線を追いかけるシリーズ。ヨーロッパを目指す難民・移民が殺到する地中海で、人命救助活動にあたるアクエリアス号を取材した『死の海からの脱出』制作:Point du Jour(フランス  2016年)。難民受け入れ枠を急拡大したドイツで、認定作業にあたる審査官の仕事の現場を取材した『難民審査官  決断のとき』制作:HANFGARN & UFER Filmproduktion / ZDF(ドイツ  2017年)。ヨーロッパの一般市民が難民に対して抱く感情を、反対派・擁護派・ルール遵守型に分類し、実際の難民たちにぶつけてみた実験的なドキュメンタリー『楽園に渡った異邦人たち』制作:Zeppers Film(オランダ  2016年)。アフガニスタンからデンマークに逃れた少女ロクサールと移民局との交渉を取材した『亡国の少女  待ち続けて』制作:Made in Copenhagen(デンマーク  2016年)。4本すべて、いま私たちが観るべきドキュメンタリー。

『孤高の牛飼い 四十年~和牛のルーツを守る~』(2017  サタデードキュメント)。
 岡山県北の限界集落で、40年ほど前から和牛のルーツといわれる「竹の谷 つる牛」を飼い続けている73歳の平田五美(いつみ)さん。肉本来の「赤身のうまさ」を持つ「竹の谷 つる牛」は、「霜降り」に価値を置く和牛業界では異端の牛であり、一度は血統が途絶えた。「奇跡」の味として評価されつつあるこの牛を復活させ、血をつないできた平田さんの孤高の闘いを追う。制作は岡山のRSK(山陽放送)。地域のドキュメンタリー番組「メッセージ」2017628日放送。


<後記>

   相変わらず、テレビ・ドキュメンタリーの充実ぶりに圧倒されている。こちらのチェックが間に合わない状態である。いつか、この報告の体裁も変わっていくかもしれない。
 近々、「山形国際ドキュメンタリー映画祭」(10/512)に出発する。私は4泊して、10本鑑賞予定だが、もちろんその内容はこの通信で報告する。映画祭の詳細は、次のHPを参照せよ。



(harappaメンバーズ=成田清文)
※「越境するサル」はharappaメンバーズの成田清文さんが発行しており、
個人通信として定期的に配信されております。